卒業生・修了生メッセージ

多比良 由恵 さん

児童学研究科 博士前期課程 [保育学]修了

児童学研究科 博士前期課程 [保育学]修了

新任副園長が抱える「困り感」。
解決の一助となる研究を活かし、人材育成にも尽力したい。

幼児教育の現場の課題を解決する手立てを大学院で研究したい。

公立幼稚園の教諭として22年勤めた後、副園長の仕事を6年経験しました。副園長は「職員室の先生」とも呼ばれ、園の運営はもちろん、人材育成、地域など外部との折衝と、中間管理職として幅広い業務を担当します。教職員が休みの時にはクラスや預かり保育のサポートに入ることもありますし、「子どもが怪我をした」「遊具が壊れた」など園内で何かあれば副園長に相談ごとが集まってきます。そのため、業務が集中しがちで、特に新任の副園長はさまざまな「困り感」を感じています。けれども、新任教員や園長とは異なり、「困り感」を解決するための指南書などはほとんどなく、副園長自身が経験の中から対処法を獲得しているのが実状です。また、副園長のなり手が少ないことも課題となっています。
 この状況に危機感を覚え、解決の手立てを見つけるために、本気でこの問題に取り組もうと決意したのです。大学で教鞭を執っている元園長の先生方から「大学院で学ぶ道もある」とアドバイスされたことで、大学院へ進学する道を選択。「絶対に2年で修了する」という目標を胸に、聖徳大学大学院に入学しました。

「質的研究法」に出会ったことで研究の方向性が定まった。

新任副園長の困り感について研究したいという思いがあったものの、的確な研究手法が分からず、入学時には「就学前教育施設における5歳児の教育内容」を研究テーマとして申請していました。けれども、スクーリングの授業で「質的研究法」という研究手法に出会い、この手法であれば新任副園長の困り感について研究できると確信。研究テーマを変更することにしました。指導教員は「質的研究法」を専門とする増井三夫先生です。
 修士論文の指導は、院生のスケジュールに合わせて対面で行われることが多かったですね。増井ゼミは、ゼミ生のつながりがとても強く、博士後期課程を修了した先輩方がゼミに参加してくださることもあり、心強かったです。「せっかく大学院に入学するのだから」と参加した入学式で出会った同期の仲間や、スクーリングで一緒になった方々と親しく情報交換させていただいたことも大きな励みになり、目標の2年で修了することができました。

副園長が主体的に働ける環境づくりが、より良い幼児教育の提供につながる。

修士論文のテーマは、「幼稚園新任副園長の職務上における困り感の要因に関する質的研究」。5人の新任副園長にインタビューを実施し、収集したデータをGTAの手法を用いて分析する質的研究を行いました。導き出した結論は、「困り感」の主因は「事務負担の輪郭把握と時間管理の調整」であるということ。新任副園長は自分が担当する業務がどのくらいの量で、どのくらい時間がかかるのかが分からず、「困り感」を感じているのです。これは、新任の副園長が主体的に動きづらい要因にもなっています。副園長が早い時期から主体的に活き活きと動けるようになれば、園全体のメリットとなるでしょう。副園長への負担を分散させ、困り感を解消することができれば、働き方改革にもつながっていくはず。この研究が、より良い幼児教育を提供することの一助となれば嬉しいですね。
 修了した年に、公立幼稚園の園長に着任しました。聖徳での2年間で、身体のこと、食育、幼児教育や教育学の歴史、特別支援教育など幅広い分野から幼児教育について学び直せたことが、大いに役立っているとともに、自信にもつながっています。今後は、人材育成に力を入れることが今の目標。質の高い幼児教育を維持するために、それを支える先生を育て、副園長として活躍する人材を増やしていきたいと考えています。