卒業生・修了生メッセージ

山本 良彦 さん

児童学研究科 博士前期課程 [児童発達学(現:児童心理学)]修了

児童学研究科 博士前期課程 [児童発達学(現:児童心理学)]修了

短大卒からの大学院進学。
納得いくまで学修・研究した経験を理学療法の世界で活用していきたい。

学ぶ意欲を支援してくれた「入学資格審査」。

医療系の短期大学部を卒業後、理学療法士として10年勤務。リハビリテーションセンターや障害児施設で経験を積んだ後、専門学校の教員となり、理学療法士の育成に携わってきました。その専門学校が4年制大学に移行することをきっかけに、進学を考えるようになったのです。専門学校では国家試験合格後に即戦力として仕事ができる理学療法士を養成することが大きな目的でした。しかし、大学では理学療法を学問として深く探究し、自ら考えながら実践できる人材を養成することに意味があると考えたのです。そのためには、私自身が学問を探究する方法や深い専門性を修得する必要があると考え、教員を続けながら進学することを決意しました。
 障害児施設で非常勤の理学療法士を兼任していたこともあり、「子ども」の研究ができる進学先を探していました。中でも聖徳は通信制で児童学が学べる数少ない大学院でした。さらに、パンフレットで短大卒からの大学院進学を目指せる「入学資格審査」の存在を知ったのです。これは大卒資格のない人の大学院入学を支援する制度で、学ぶ意欲のある社会人に広く門戸を開くもの。審査方法は書類審査と面接で、実務経験のほか、研究会での発表実績なども評価の対象となります。
 「入学資格審査」と言うと堅苦しいイメージがあり、かなり気負って面接に臨んだことを覚えています。当時は肢体不自由児の身体的機能について研究することを考えていたのですが、面接中に「聖徳では身体的なものが研究できないのでは……。自分は場違いなのでは?」という不安を感じた瞬間もありました。けれども、今までのキャリアや学ぶ目的、手がけたい研究について教授陣がじっくりと話を聞いてくださって。「あなたが研究したいことなら、何でも挑戦していい」という言葉をいただき、学ぶ意欲をきちんと評価してくれていると感じました。「入学資格審査」に認定されることで大学院出願資格を取得し、その後の入試も合格。短大卒から大学院への進学を実現することができました。

同僚や家族、学友。その支えが大きな励みに。

学生は勉強することが仕事と言われますが、仕事を持つ社会人が勉強するということは仕事を2つ持つようなものです。どちらも中途半端にはできないため、相当な覚悟が必要だと思いました。1年目はレポート作成と科目終了試験での単位修得がメイン。まとまった自由な時間がある週末に集中的に勉強しましたね。「スタディガイド」「履修と研究の手引」を読み込み、専門用語を調べ、自分で作った予想問題を解くという方法で学習を進めていきました。予想問題はあまり当たらなかったのですが、論述の解答を考える中で、試験に対応する知識量がどんどん増え、予想した以外の問題にも対応できるようになりました。
 2年目は修士論文の作成に割く時間が多かったですね。一番大変だったのは、参考文献・引用文献の管理。日本語、英語を問わず、膨大な数の文献にあたっていたので、どの文献のどこに何が書かれているかをすぐに見つけ出すのは大変な作業です。私は、ファイルした文献に著者名と発表年を書いた付箋を貼るという方法をとりました。これなら、付箋を見ただけで文献をすぐに検索できます。アナログな手法ですが、かえって効率的だったと思います。
 実は2年目で修士論文を書き上げていたのですが、提出を見送りました。私の研究は測定項目やデータ量が多かったこともあり、結果のまとめや考察が進まなくて……。何とか形になったものの、全く納得のいく出来ではなく、質の高い論文に仕上げたいと考え、3年目も修士論文に取り組みました。指導教員とのやり取りは主にメールを通してでしたが、月に1回程度は面接指導を受けていました。仕事と研究の両立は、常に時間的な制約との闘い。職場の同僚や家族の支えに加え、仕事を持ちつつ学ぶ仲間の存在も大きな励みになりましたね。

ライフワークと関連した研究で得た新たな知見。

修士論文作成のために選んだ研究テーマは「知的障害者に対するバランス・ディスクを用いた平衡機能への介入効果の検討― 閉眼によるバランス練習の即時的効果―」。教員として働く傍ら、ライフワークとして10年前からダウン症児の体力測定などに取り組んできました。また、理学療法を行う中で、運動には「感覚入力」が重要であることも感じていました。そこで、「バランス感覚の練習は知的障害者に効果があるのか」をテーマに研究することにしたのです。
 学生ボランティアや障害者の方々に協力してもらい、データを収集。「閉眼」「開眼」という視覚情報の有無において、バランス感覚の練習の有効性がどのように変化するのかを調べました。研究の結果、「閉眼」と「開眼」ではそれぞれ向上する力が異なることがわかりました。例えば、片脚立ちをするとき、眼を閉じて行うとふらつくことがありますよね。これは通常は視覚に頼ってバランスをとっているからです。片脚立ちのような静的なバランス感覚を強化するには、閉眼での練習による効果が高いという結果が出ました。反対に能動的なバランス感覚は開眼での練習で強化されるのです。さらに、練習をすることで、ダウン症児のバランス感覚を強化できることも明らかになりました。ライフワークとしていた分野の理解を深められ、今後の活動にも活かせる知見を得られたと自負しています。

3年間の学びが教員としての強みに。

新たな知識を身につけ、論文を完成させ、仕事を続けながら修士号を取得することは、とても大変なことです。けれども、このチャレンジがあったからこそ、教員としての指導の強みを得ることができたと感じています。修士2年の年から大学教員として学生の指導に携わっていますが、大学院で身につけた探究する姿勢は、学生の卒業論文指導でも役立てられていますね。私の教え子の中には、大学院に進学する学生もいます。「頑張れ」と励ますだけではなく、どう頑張れば良いのかまでアドバイスできるのも、大学院での学びという経験があるから。自ら考えながら理学療法を実践できる理学療法士を一人でも多く育てていきたいですね。