卒業生・修了生メッセージ

布施 仁 さん

児童学研究科 博士前期課程 [保育学]修了

児童学研究科 博士前期課程 [保育学]修了

独自性を磨こうと大学院へ進学。
2年間の学びの先に、可能性の広がりを実感しています。

力を注いできた陸上から興味のあった保育の道へ。

大学時代は駅伝部に所属。在学中は主将と寮長を務め、東京箱根間往復大学駅伝競走では、優勝1回、準優勝を2回経験することができました。当時は、卒業後に競技をつづけることも検討していましたが、自分が主将を務めた年に優勝することができず、このままつづけるのではなく、選手以外の選択肢もあるかもしれない、と考えたのです。
 多くの選択肢がある中、保育士を志したのは、母親が保育士をしていたことに加え、部活生活を送る中で、ケニア人留学生とルームシェアをしたり、さまざまな人たちとふれあい、子どもの時の育つ環境が人生に及ぼす影響力に関心を持ったからです。大学卒業後は、専門学校に通い、保育士・幼稚園教諭の2つの資格免許を取得しました。
 その後長年保育士として現場を重視して働いてきましたが、ある時、卒業した専門学校から声がかかり、専任教員をすることになりました。子どもたちの現状を把握するには現場が一番だと考えていたので、専任教員になってからも、保育士として現場に立つことは継続しました。

実践報告を通じて力不足を痛感。

 専任教員になってからは、学会に参加し、実践報告をする機会が多くなりました。保育の学会では1回に600ほどの発表がありますが、実際の子どもたちの状況を伝えられる実践報告はそのうち40~50ほど。さらに、私が関心を持っていた運動遊びになると10~20くらいと少なく、子どもたちを取り巻く環境の未来を切り拓くための学会に貢献していけるように、現状把握からの提案をして広げていく機会が大切だと気づきました。
 私は、とりわけ現場を重視していたので、現場での経験から実践報告をしていたのですが、オーディエンスの先生方からは「その根拠は?」と問われることが多く、しっかりしたエビデンスが無いと、多くの人々を説得できるような発表ができない、大切な事実を伝えられない、と危機感を覚えました。現場を経験したことがある人なら、なんとなくわかるであろう、ということも、学会の場ではきちんとした裏づけがなければ、発表者の主観と見なされ、何の効力も持たないものになってしまうのです。そこで、今後増える発表の場に備え、自分ならではの独自性を磨きつつ、力をつけていきたいと考え、大学院進学を検討しはじめました。
 学会には各大学で研究されていたり、教鞭をとられていたりする先生が多くいらっしゃいますので、自分のやりたいことを聞いてくださり、その場で「うちにいらっしゃい」と誘ってくださる方も多くいらっしゃいました。その中でも、聖徳は通信制で学べる数少ない貴重な大学で、調べてみると附属幼稚園を有していたので、現場を重視しているなと感じ、その姿勢が自分に合っているのではと思い、入学を決めました。他の先生方からの勧めが多かったのも、決め手のひとつです。

つながりが生まれる絶好の学びの場。

 聖徳はスクーリングという手法で学習を進める、というのもポイントでした。先生やほかの学生に会える機会があるからです。入学前も、すでに聖徳で学ばれている先輩方に話を聞く機会があり、その方々の話を参考に、絶対に2年で修了しようと、覚悟を決めて入学することができました。また、入学試験の面接の際には、実際に自分が授業で使っていた教科書を執筆していた塩先生とお会いすることができました。実際に対面し、どんな研究をしたいのかなど、さまざまなお話をさせていただけたのはとても感慨深かったです。
 こうして人と直につながり、研究以外でも多くの学びが得られるのは聖徳の特長だと思います。私が聖徳に決めたのは、こういった理由もありますが、ほかにも、関東の保育関係者ともっとつながりをつくりたい、という思いもありました。というのも、文部科学省や厚生労働省など、子どもたちを取り巻く教育環境を司る省庁が集まっており、その施策がはじめにおりてくるなど、保育の情報発信の中心地は関東ですので、さまざまな情報交換ができると思ったからです。実際に配属された研究室では多くの方々と知り合いになり、修了した今でも、先生を含め、連絡を取り合い情報交換できています。

あきらめずに、あえて幅広いテーマで研究。

 修士論文のテーマは「幼児の保育領域運動遊びにおける5領域の効果- 保護者・保育者の評定による- 」に設定しました。このテーマにしたのは、保育士をしていた頃の経験が大きく影響しています。当時、健康だったら健康を意識したカリキュラム、言葉だったら言葉を意識したカリキュラム、というように、5領域それぞれを分断して考えることが多くありました。しかし、5領域それぞれは切っても切れないのではないか、と感じていたのです。
 例えば、リレー。一見、健康を意識した種目のように思いがちですが、リレーをする目的を、バトンの受け渡しやチームでの作業と考えると、横断する領域が人間関係にもあるように考えられます。また、ジャンプ一つをとっても、ただ高く飛ぶようにジャンプをさせるのと、かえるごっこをしながら、鳴きまねなどをしてジャンプをさせるのでは、かえるごっこをしながらの方が高く飛べる、という事例があったり、領域横断をしている運動遊びの有効性を感じていました。
 そこで、5領域のねらいや内容を意図的に組み込んだ運動遊びを実施した子ども群と実施しなかった子ども群との比較をすることで、5領域すべての関連性と有用性を明らかにしようと研究にとりかかりました。5領域は広すぎるのでは、という指摘も受けましたが、5領域での研究にこだわっていたため、指導教員の鈴木先生に何度も相談し、手厚くサポートいただきながら、あきらめずに研究にとりかかる道を模索しました。そして、本調査前に、先行して特定の領域で研究を試みたのですが、その結果有用性が確認できたため、最終的に5領域に数を広げて研究を進めることを後押ししていただきました。

修めた学びが独自の力に。保育者の育成にも尽力したい。

 研究では5領域相互の関連性があると明らかにすることができ、このことから、カリキュラム作成においても、領域横断の意識があったほうが良いと自信を持って言えるようになりました。現在、講師を務める大学では、将来の保育者たちに対し、カリキュラム作成を指導する授業を受け持っているのですが、授業内では、この研究成果を活かし、一つの領域に固持することなく、あるテーマのもとに複数の領域を意識して考えられるよう指導しています。この研究が、現場目線を大切に活動してきた私の独自性をさらに高めてくれたのか、卒業後、京都保育協会をはじめ、多方面から講演や実技指導の依頼があったり、想像以上に多数のつながりが生まれました。現職もそのつながりの一つです。自分の力を高めるための勉強が、ステップアップへの道を切り拓けたのは、自分でも予想外でした。
 修了までの2年間は、ひたすら1本の道を突き進むしかありませんが、その先にはとてつもなくたくさんの道が広がっています。孤独なイメージのある通信教育ですが、聖徳には自分の究めたい道を全力でサポートしてくれる先生や仲間がたくさんいます。思い切って一歩をふみだすことができ、良かったと思っています。これからも、聖徳での学びを糧に、子どもたちを取り巻く保育環境はもちろん、保育者の育成にも力を入れていけたらと考えています。